人間との暮らし方② ストレスを減らそう

第2章 人間との暮らし方

1. 人と出会うのに最適な時期

私たち猫の発達段階に社会化期という時期があります。
一般的には生後3週間~3ヶ月の子猫の時期です。この時期は本来、猫社会のルールを学ぶ時期なのですが、現代ではこの時期に人間の家庭で過ごすことが人間と良い関係を築く第一歩になると言われています。
特に、子猫時代の生後2~3ヶ月に人間と暮らし始めるのが最適と考えられています。3ヶ月を過ぎると子猫によっては人に対して警戒心が強くなり慣れにくくなるからです。
また、この時期に飼い主さん以外の人間と接触がない環境に育つと、ほかの人間に慣れるのが難しくなります。女性の飼い主さんに育てられると男性が苦手になる、ということもあるようです。
こういうことがないように、人間の赤ちゃんや小さな子ども、男性、女性、年配者など、様々な種類の人間に会っておいた方が私たち猫にとっては得策です。

その他、注意することもあります。
私たち猫は元来、触られたり抑えられたりすることが嫌いですが、人間の中にはなぜか私たち猫をやたらと触りたがったり、水の中に入れたり(シャンプーと呼ばれています)、挙句の果てには抑えられて爪を切られたり、とんでもない種類の人間もいます。
これらは人間と暮らす上で避けて通れない問題ですが、生後3ヶ月までの社会化期までに、これらの経験をしておくことで将来大きな問題にならない場合もありますので、飼い主さんには知っておいてほしいと思います。
ただ、飼い主さんが無理強いするタイプだと、いくら経験しても嫌なイメージがついてトラウマになる可能性もあります。飼い主さんは十分注意してくださいね。

私たち猫は、生まれつき人間と親密だったわけではありません。
ごはんと寝床を分けてもらうだけの関係であっても、私たち猫はそれ以上のものを必要としません。
私たち猫の本能である、嫌なことはしない、嫌いなものには近づかない、この生き方を貫く強い意志を持ち続けることが私たち猫にとって大切なことですから、猫諸君も心して人間と向き合っていきましょう。

2. 人と暮らす快適空間

現代社会では都市化が進み、私たち猫も人間と暮らす上で生活環境を考えなければならない時代になっています。
人間の世界でも、野良猫や屋外で飼われている猫の排泄物が社会問題にもなっており、動物愛護的にも猫は室内で生活させるのが望ましいという見解が示されているようです。私たち猫から見れば、テリトリーの安全性が確保されていれば多少狭いと感じる環境でもストレスをあまり感じません。狭い室内でも、立体的に動き回れるエリアを作ってくれるセンスのある飼い主さんを選ぶ必要はありますが、無ければ無いで何とかするのも私たち猫の特性です。
ただし、トイレのスペースは別問題です。元来キレイ好きな私たち猫にとってトイレの問題は重要です。人間やほかの動物があまり通らない落ち着いた場所にトイレを設置してほしいものです。
また、常に清潔に保ちたいので、トイレの掃除をマメにしてくれない飼い主さんにはトイレの砂をばらまくなど、それなりの方法で抗議しても良いということになっています。
また、多頭飼育をしている場合はトイレも複数個必要です。飼育頭数プラス1個を基本にトイレの数は交渉したいものです。

もともと私たち猫は、自分にとって快適な場所を見つける才能があります。
冬は暖かく陽の当たる場所、夏は風通しがよく涼しい場所などを見つけるのは簡単なことですよね。
しかし人間と暮らすようになると、お気に入りの場所が人間と重なることがよくあります。
でも猫諸君、あきらめる必要はありません。このテキストは人間も一緒に学んでいますから言いにくいのですが、言っちゃいます。
例えばお気に入りの場所がイスの上だとします。その場合、まずそのイスの上で過ごす自分をたっぷりと人間に見せつけます。猫がいつもそのイスの上にいるということを人間の目に慣れさせるのです。実は人間は習慣の動物なので、イスの上の猫に慣れてくると、やがてそのイスは人間のモノではなく猫のモノだと納得するようになるのです。
飼い主さんも心当たりあるでしょ?(笑)
そもそも共同生活をしているわけですから、人間も多少の犠牲を払うべきなのですよ。
猫が気に入って選んだ場所は可能な限り猫に分け与えるような、広い心を持った飼い主さんでいてほしいですね。
また、私たち猫が上り下りできるように高さの違う家具などを配置して、キャットステップを作ってもらえたらなと思います。これがあると無いでは、お気に入りの場所を見つける手間が変わってきます。
さらに、爪とぎや場所によっては猫用ドアなども要求したいし、出来るだけストレスがかからない快適環境を作ってもらえたらなと思います。

3. ストレスを減らそう

人間と暮らすことが多くなった現代社会では、ストレスの要因が格段に増えています。
ストレスは体調不良や行動異常の原因になるので、極力ストレスのない穏やかな暮らしを望んでいます。
まずはじめに、私たち猫は環境の変化を嫌う習性があります。部屋の模様替えや大掃除、引っ越しなんか最悪です!物足りないと思うかもしれませんが、私たち猫は昨日と同じ今日が大好きなんです。

ストレスの要因として最近では、飼い主さんとの関係がストレスになっているというケースが増えています。いつも触られていたり抱きかかえられていたりすることは、私たち猫にとってストレスになる一番の要因なのですが、これに気づかない飼い主さんも多いです。
もし嫌な時に抱き上げられたら・・・・・・・。ひっかいてでも、何としても逃げる。
たとえ後ろで「絆創膏!」とか叫ぶ声が聞こえても知ったことではありません。甘やかすのは人間のためになりません(笑)

さて、飼い主さんとの関係が一因となるストレスには、粗相をしたりおしっこのスプレー行為などの症状が現れる場合もあります。
トイレ以外の場所で排泄する理由には、トイレが快適ではない(猫砂の質感や香り、トイレの形状や周りの環境が気に入らないなどの理由)や、他の猫との仲の問題、飼い主さんにもっと構ってもらいたいなど心の状態を示していることもあります。
体に不調がある、などの理由も考えられますので泌尿器系の病気がないか病院で検査を受けることも大切です。
しつけでは解決できない問題ですので、原因をみつけて対処してあげてください。

また、とてもデリケートな問題ではありますが、人間に飼われている現代の猫は、飼い主さんによっては避妊・去勢手術を受けることがあります。
これは、すべてが人間の悪意からではないことは私たち猫も承知しています。
現代は、野山を自由に駆け回っていた私たち猫の祖先の時代とは大きく生活環境が変わっていますし、避妊・去勢手術によって私たち猫の安全が守られ、現代の生活環境に適応し、ストレスも軽減されてきた歴史もあることは事実です。

様々なストレスについてお話してきましたが、最後に一番厄介なストレスについてお伝えします。
ストレスの一因として、飼い主さんが留守がちだったり、無関心だったりすることでストレスになるという報告があります。実は、これは私たち猫が人間と暮らすようになったために生まれたストレスだとも言われています。
飼い猫なら一度は経験したことがあるかと思います。人間はとても不思議な生き物で、私たち猫の飼い主になると、母猫のようにごはんを与え、母猫のようにかわいがり、母猫のように面倒を見てくれるようになります。
しかし、いつまでも子離れができないでいるため、私たち猫も、つい、いつまでも子猫のつもりになってしまうのです。
この結果、子猫のころから人間に飼われた猫は大人になっても母猫に甘えるように飼い主さんに甘えるようになります。抱かれたり撫でられたりすると子猫のように喜び、喉をゴロゴロ鳴らし、柔らかい布などをついフミフミするようになります。
飼い主さんがいなくなると寂しいという感情を持つようになるのも、子猫気分でいるからだと言われています。
人間と暮らすようになって、人間がいかに愚かで、見栄っ張りで、無責任で、偽善的だということがわかっていても、気づけば胸が苦しくて切ないような、それでいて温かくて優しくて、何とも言えない不思議な気持ちに包まれていることに気づくことがあります。

これは人間が私たち猫に惜しみなく注ぐ「愛」というミステリアスな感情です。

「愛」については猫界でも研究が進んでいるので、別の機会にお話しできると思います。
問題は、この愛を感じる時、ついつい飼い主さんのことが愛しい存在に思えてしまうということです。
私たち猫は、そんな「愛」と引き換えに、飼い主さんが留守がちだと寂しい気持ちを抱くようになり、急に無関心だと心配になったり、余計なストレスを抱えることになったのです。
私たち猫が、幼いころに母猫に抱いた気持にも似たこの「愛」という感情は、私たち猫にとってストレスの一因でもあり、また、心地良いやすらぎでもあるのです。
人間と暮らしていく上で、ある意味必要なストレスなのかも知れません。
※イラスト/しげるさん(イラストAC)